2:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:04:55 ID:pPAONor6
女(さあ…初の愛車、VTR250ちゃん…キミは男の子? 女の子かな?)
女(今日の初ツーリングの乗り味で、性別と名前決めてあげるからね)
女「よし…スタンドを払って──」グイッ…
女「………」
女「やっぱり立ちゴケ怖いから、跨ってからにしよ」イソイソ…
女(スタンドOK、アイドリングOK、よーし…ローに…)
女「あ、グローブしてないや」
女「…怖いからエンジン切ってスタンド立てとこ」モタモタ
3:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:07:10 ID:pPAONor6
女「今度こそ!」
女(グローブ&ヘルメットOK、アイドリングOK、スタンド払った)
女(クラッチを…ギアをローに…)ギュッ…コトンッ
女「ふふ…ふふふ…っ」
女(ヤバイ、ニヤニヤ止まんない)
女「よっ…と」グッ…
──ドロロロロォンッ!
女(クラッチ…ミート…)スス…ッ
ドロロロロロッ──
女「よぉし…!」
──コトン、プスンッ
女「エンストOK…いいよ、やると思ってたから…」ガクッ…
4:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:07:46 ID:pPAONor6
………
…
ドロロロロロロロ…
女「──ひゃっほーーう!」
女(最高です、最高ですよ…教習所や夜の慣らし運転とは別モノだなぁ)
女(BGMかけるなら、ステッペンウルフで是非っ!)
女(バスの窓から眺める景色とは大違いだよ)
女(ヘルメット越しに伝わる風切り音とエンジンノイズ、純正だから控え目な排気音)
女(グリップから届く、この子の鼓動感)
女(制限速度を守った安全運転でも、こんなに気持ちいい)
5:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:08:36 ID:pPAONor6
女(思えば昨日…)
女友『女ちゃん、明日みんなでランチしに行くけど来ない?』
女『あー、めっちゃ魅力的だけど…パス。約束あるんだー』
女友『えっ!? まままさか…彼氏できた!?』
女『まだ男の子か女の子か解んないんだけどね』
女友『…それってまさか』
女『バレた? 初ツーリング行くつもりなんだ!』
女友『はぁ…あんた可愛いのに、なんでそんな男前な趣味に走っちゃったのよ──』
6:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:09:25 ID:pPAONor6
女(──みんな、ごめんね)
女(大丈夫、ランチも夜の女子会も行かなくなるわけじゃないんだよ)
女(でも今日は…)グイッ
ドロロッオオオオオオンッ!
女「ヤバイ、官能的…!」ウットリ
女(ウチから渋滞無くツーリングロードに出ようと思ったら)
女(うん…ちょっと怖いけど、やっぱりあの峠を越えなきゃね)
女(大きな事故もあったりする峠らしいけど…)
女(攻め込んだりはしない、安全運転で)
女(よしっ、できるだけ峠ライダーに会いませんように──)
7:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:10:08 ID:pPAONor6
………
…
女「とっ…ととっ…!」モタモタッ
…ドドロロロロッ
女(おっけー、ヘアピンクリア!)
女(よかった…すれ違うライダーはいるけど、追ってくる人はいないや)
女(まあこれだけモタついてたら、たぶん後ろから来ても生暖かい目で見てくれるはず…)
女(あんまりミラー見る余裕は無いでーす。あおるくらいなら、速やかに抜いて下さーい)
《──やっぱり気持ちいいな》
女(…ん?)
女(何か聞こえたような…気のせいか)
8:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:10:45 ID:pPAONor6
女(確かこのコーナーの先には展望パーキングがあったはず…止まって写真でも撮ろっかな)
女(…げっ、ベテランっぽいライダーいっぱいだ)
女(パスしよ…今日はやーめた)
女(あ、一人ピースサイン出してくれた)ペコリ
女(ごめんなさーい、まだお辞儀するので精一杯でーす)
女(ちゃんと伝わったかな…)
女(よーし、あとコーナーいくつかで峠はおしまい)
女(うわわっ! 危ない…このコーナー、道に砂が出てる)
女(ガードレールに花が供えてあるし…危ないところなんだな)
女(…覚えとこうっと)
9:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:11:41 ID:pPAONor6
女(お…ラストコーナー、こうして見るといい角度…)
女(ちょびっとだけ頑張っちゃおうかな! ギア…ひとつ下げて──)
──ドドロロロッ、カツンッ…
…ヴァオオオオンッ!
女「てーいっ!」
オオォォン…ヴォンッ…
…ヴォォォオオオオオオオオンッ!
女「最っ高…! イッちゃいそう!」ゾクゾクッ
女(でもでも、視界も開けて…あとはゆっくり走ろ──)
《──また、来てね》
女(えっ…?)
女(……なんだろ、やっぱり気のせいなのかな)
10:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:12:25 ID:pPAONor6
……………
………
…
…夕方、同じ峠の手前
ドロロロロッ…ドロロロロロッ…
女(はぁ…疲れた)
女(手は痺れてるし、髪はぐちゃぐちゃ)
女(何より私のお尻はどうなっちゃたんでしょう)
女(石のように固いような、板のようにぺったんこなような)
女(こんなじゃ今夜男性に誘われても応えられない!)
女(…無えよ、そんな話! 悪かったな!)
11:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:13:00 ID:pPAONor6
女(でも、最高に楽しかった)
女(道の駅で会ったZRX1200のお姉さん、格好よかったな…)
女(その後、めっちゃハーレーのおじさま達に話しかけられて参ったけど)
女(だけどみんないい人)
女(さあ…あとちょっと、朝の峠を越えて)
女(でももうダルなライディングしかできないな──)
《──おかえりなさい》
女(…!!)
女(気のせいじゃない…やっぱり声がする)
女(少し薄暗くなってるし、怖いな…)
12:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:13:37 ID:pPAONor6
女(どこから聞こえてるんだろう──)チラッ
女「……うっ!!?」
女(──後ろに…誰か乗ってる…!)
女(朝はミラーを見る余裕が無くて気付かなかった)
女(どうしよう…怖い怖い怖いっ)
女(気付かないふり…気付いてないふりを!)
女(何も見てない…私は知らない! ユウレイなんか見えないっ!)
…チラッ
女(やっぱりいるよおおおぉぉぉ!)
13:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:15:00 ID:pPAONor6
女(ううう…あとみっつ、コーナーを抜けたら地元だ…!)
女(無事に抜けられますように…!)
…ヴォオオオオンッ!
《また通ってね、楽しかった──》
──フッ
女「消えた…?」
女(よかった…峠、抜けた)
女(でも、最後…)
女(『楽しかった』って…『また通ってね』って…)
女(なんか、悪いユウレイじゃない…のかも?)
ドロロロロロロッ……
14:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:21:20 ID:/ejvUFYg
……………
………
…
…翌日、日曜日の朝
女「う…痛たた…」
女(情けないなぁ…二の腕が筋肉痛になってる)
女(お尻は…よしよし、魅惑の柔らかさ回復)
女(今日はどうしようかなぁ)
女(…っていうか、昨日の峠での出来事は本当だったのかな)
女(怖かったけど…喉元過ぎてみると、興味が掻きたてられますなー)
女「…よしっ」
15:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:22:19 ID:/ejvUFYg
………
…
ドロロロロロロッ……
女(さあ、峠道…出てくるかな?)
女(今は明るい時間だから、夕暮れほど怖くはないぞっ)
《──また来てくれたんだね》フワッ…
女「!!」
女(…出た! 今度は姿もよく見える…!)
女(女の子だ…高校生?)
女(制服着てる…)
16:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:22:58 ID:/ejvUFYg
女「…バイク、好きなの?」
《えっ…!?》
女「見えてるよ、昨日も後ろに乗ってたよね?」
《気付いてたんだ…どうして、怖くないの?》
女「怖くない事は無いけど…貴女、悪いユウレイじゃなさそう」
《驚いた…ユウレイが後ろに乗るって解ってて、また来てくれたんだ…》
女(…今日はまだパーキングに誰もいないな)
女「貴女、バイク停めたら消えちゃう?」
《いいえ…?》
女「じゃあ、ちょっと停まるね──」
17:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:23:46 ID:/ejvUFYg
………
…
モゾモゾッ…ファサッ
女「ふうっ…」
《…ごめんなさい、勝手に後ろに乗って》
女「構わないよ……ユウレイだからかな? 重さも感じないし、なんの邪魔にもならない」
《そう…ですか》
女「貴女、本当にユウレイ?」
《…はい、そうです》
女「びっくりだなぁ…20年ちょっと生きてきて、初めて見たよ」
《私だって…もう3年もユウレイやってますけど、気付かれたのも話しかけられたのも初めて》
18:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:24:21 ID:/ejvUFYg
女「あはは……私、『女』っていうんだ。貴女は?」
《『幽霊』…です》
女「じゃあ、幽でいいね」
幽《ぷっ…あははっ、すごい…ユウレイにあだ名までつけちゃうんですか》
女「いいでしょ、これでもう全然怖くない」
幽《…ありがとうございます》
女「それで、なんで後ろに乗ったの? やっぱりバイク好きなの?」
幽《はい、好きです……自分で運転した事は無かったけど》
女「…もしかして、ユウレイになっちゃったのって、バイク関係ある?」
幽《………》コクン
19:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:24:59 ID:/ejvUFYg
女「それでもバイク好きなんだ」
幽《はい、すごく気持ちいいです》
女「他の人の後ろにも乗ったりするの?」
幽《たまに…できるだけ女性ライダーさんの後ろに》
女「私なんか、まだまだ下手くそでしょ」
幽《確かに他の方はもっとすごいスピードで曲がっていきますね》
女「いいんだよ、安全運転で」
幽《はい、いいと思います》
女「……あ、バイクだ」
幽《大きなバイクですね》
女「CB1300だね、格好いいなあ……停まらずに行っちゃった」
20:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:25:43 ID:/ejvUFYg
幽《女さんのバイクも格好いいですよ》
女「うん? …ありがと」
幽《小柄で、女の人っぽいバイクです》
女「あっ」
幽《…はい?》
女「そうだ…昨日この子の性別と名前決めるつもりだったんだ」
幽《バイクのですか? あはは…面白いですね》
女「確かに幽の言う通り、女の人っぽい気がするね」
幽《ボディも赤ですしね》
女「よし…じゃあ性別は女の子で、名前は──」
幽《……?》ワクワク
女「──パッといいのは思いつかないなぁ、保留しよ」
幽《えっ》ガクッ
21:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:26:26 ID:/ejvUFYg
女「ところで幽って、他の人にも見えてるの?」
幽《解らないですけど…たぶん見えてないと思います。今まで気付かれた事ないですし》
女「そっか…じゃああんまり人前で話してたら怪しい人になっちゃうな」
幽《そうですね、気をつけて下さい》
女「うーん…今日はどうしよっかな、せっかくだから違う方向に走って…」
幽《いいんじゃないですか? 天気もいいし》
女「うん、じゃあ一緒に行こうよ」
幽《…それは無理みたいなんです》
女「えっ?」
幽《私、この峠からは離れられないみたいで…》
22:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 16:27:08 ID:/ejvUFYg
女「そうなんだ…」
幽《でもせっかくですもん、行ってきて下さい。どんなツーリングだったか、夕方にここを通って教えてくれると嬉しいな》
女「…うん、そうだね。ちょっと早目に戻ってくるようにするよ!」
幽《はいっ》
女「じゃあ、また後ろ乗って? 峠越えるまでゆっくり行こう」
幽《えへへ、お邪魔しまーす》
女「なんか重さを感じないから不安になるなぁ」
幽《大丈夫、落ちても平気ですから》
女「本当は免許とって一年間はタンデムしちゃいけないんだけどね。…まあ、ユウレイの事は決められてないか」
幽《あははっ、捕まえようがないですよ》
女「そだね…よし、行くよっ」
…ドロロロロッ…ヴォオオオオオォォンッ!
29:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 19:48:20 ID:sqx8QzpQ
……………
………
…
ドロロロロロロンッ──
幽《──おはようございます》フワッ
女「おっ、出たなユウレイ…おっはよ」ニコッ
幽《二週間ぶりですね》
女「先週はごめんね、雨降ってたから」
幽《仕方ないですよ、そんなの》
女「今日はこの峠にもっと慣れるためにも、何往復かしようと思うんだ」
幽《嬉しい、いっぱい走れますね!》
女「コーナリングが上手くできてたか批評してね? …行くぞっ──」
30:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 19:49:14 ID:sqx8QzpQ
……………
………
…
女「──でね、疑われてるんだよ」
幽《そりゃここ一ヶ月も毎週末ぜんぜん友達と会って無かったら、彼氏の存在を疑われますよ》
女「実際には鋼鉄製の彼女とユウレイの彼女と、百合ゆりハーレムなんだけどね」
幽《あははっ…でも、本当に彼氏さんとかいないんですか?》
女「いたら毎週こんなにガソリンばっか燃やさないよー」
幽《…なんだか申し訳ない事を訊きました》
女「ちょっと、本当にすまなそうな顔するのやめてくれる?」
31:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 19:49:52 ID:sqx8QzpQ
……………
………
…
ヴォオオオォォッ──
幽《わわっ…! すごくいい角度でしたよ、今の!》
女「もうここを走り始めてふた月だからね、あのコーナーだけは得意になったつもりっ!」
幽《でもあんまり飛ばしすぎちゃダメですよーぅ》
女「この峠、制限速度50km/hだから」
幽《そりゃヘアピンですから、50km/hも出てないでしょうけど…》
女「…たぶんそういうのも別の違反にかかるんだろうけどね」
幽《女さん、絶対に大きな事故はしちゃだめですよ》
女(…幽がユウレイになったのって…やっぱりバイク事故が原因なのかな)
33:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 19:51:56 ID:sqx8QzpQ
……………
………
…
女「あ、来たよ……あれは?」
幽《V-max?》
女「残念ー、ホンダのX4だね。…次のは?」
幽《あの色はニンジャです》
女「何ccの?」
幽《…400cc?》
女「違いまーす。ほーら、ナンバープレートが白枠でしょ? 250ccの下忍だね」
幽《下忍ですか》
女「うん、忍者の格付け。250cc以下が下忍、400ccのNinjaやGPzが中忍、ZX6やGPz600が上忍…って、勝手に思ってる」
幽《もっと大きいのは?》
女「GPz900とかZX11とかは、もう忍者の頭領だね。ハットリとか呼んであげたいね」
幽《ニンニンでござる!》
34:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 19:54:26 ID:sqx8QzpQ
……………
………
…
幽《…ところで女さんって、社会人なんですか?》
女「うん、一応OL一年生」
幽《へえぇ…私、最初はてっきり学生さんかと》
女「あははっ、いいけどね! 学生さんに見えるくらい若いけどね!」
幽《いえ…どちらかというと、社会人に見えないくらい落ち着きが──》
女「──この峠も最後かぁ…寂しくなるなぁ」フッ…
幽《嘘っ! 嘘です! そんな意地悪言わないで下さいよぅ!》アタフタ
35:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 19:55:15 ID:sqx8QzpQ
女「っていうか、お給料貰ってなきゃバイクなんて買えないよ」
幽《親御さんの出資かと思ってました》
女「軽自動車ならともかくねえ…バイクは買ってくれないかな」
幽《社会人一年生で、お給料で買った初めての大きなものがバイクって…》
女「みなまで言うな、オンナらしくないとは自覚しておる…」
36:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 19:55:52 ID:sqx8QzpQ
……………
………
…
ドロロロロッ──
女(…さて、そろそろ乗ってくるかな?)
女(………)
女(……来ないな)
女(おかしいな…他の人の後ろでも乗ってるのかな?)
女「むむ…幽の浮気者っ! 文字通りの尻軽オンナッ!」
女(…悪口言っても出てこないなぁ)
37:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 19:57:00 ID:sqx8QzpQ
女(おっと…この次のコーナーだけは気をつけなきゃ)
女(特に雨あがりの時は、よく砂が出てるから──)
女「──ん?」
女(待避所で広くなったところに…軽自動車)
女(山菜が採れる時季でも無いのに、珍しいな)
女「……えっ」
女(オトコの人が、ガードレールに花を…)
女(…その向こう、あの人は気付いてないみたいだったけど)
女(正面に立ってたのって…幽──?)
38:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 19:58:06 ID:sqx8QzpQ
……………
………
…
…翌日
女「…昨日、乗ってこなかったね」
幽《ごめんなさい、ちょっと…》
女「いいんだよ、ユウレイもいろいろ忙しいでしょ」
幽《…ありがとうございます》
女「雨の多い時期になっちゃったなぁ…今にも降り出しそう」
幽《降り始めない内に帰った方がいいですよ》
女「幽は…? なんだか独りぼっちで雨に打たれたりするのかと思うと、すごく辛い事のような」
幽《姿を消せばいいですから》
女「夜は…?」
幽《…姿を消してる間って、寝てるみたいなものなんです。大丈夫…心配ないですよ》
39:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 19:59:10 ID:sqx8QzpQ
幽《まあ姿を現してるつもりでも、気づくのは女さんくらいですけどねー》
女「なんで私、貴女が見えたんだろう」
幽《なんででしょう…でも女さんは私を怖がったりしないから、受け入れてくれる人には見えやすいのかも》
女「なんとなく今の『受け入れてくれる人』っていうのが『単純な人』って意味に聞こえた」ムスッ
幽《…間違ってはないかな》クスクス
女「ね、幽は今までどんなバイクの後ろにお邪魔した事あるの?」
幽《基本、女性ライダーの後ろにしか乗らないようにしてますからね…それに車種ってイマイチ判らないです》
女「女の人が乗るって事は、割と小柄なバイクが多いのかな」
幽《あー、えーと…なんでしたっけ…ハロー? なんか悪路を走るようなバイク》
女「ぷっ…! それハローじゃなくて、セローだよ…あはははっ」
幽《うわ、めっちゃ笑われた! もういい、答えませーん》プイッ
40:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 20:00:00 ID:sqx8QzpQ
女「ああ…可笑しかった。でもセローは確かに女の人多いね」
幽《知らなーい》
女「ごめんってば、あとは…今だったらCBR250とか? それからアメリカンとかも女の人けっこういるよね」
幽《アメリカンかぁ…ドラッグスターとか?》
女「そうそう、特にあれの250ccは男の人にはちょっと小さいからね」
幽《マグマは250ccでも大きいんですけどね》
女「ぷはっ!」
幽《……?》
女(いけない…ここで『マグマじゃなくてマグナだよ』とか言ったら、また拗ねる…)プククク…
41:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 20:00:54 ID:sqx8QzpQ
幽《女さんは、どうしてこのバイクにしたんですか?》
女「ん…? うーん…単純にデザインに惚れて、ネットとかで調べたらこのVツインエンジンはすごく故障が少ない&扱いやすいって」
幽《へえ…》
女「でもよく調べると排ガス規制の関係で、エンジンは大きく型替わりしてるみたいなんだ。この型の信頼性はまだまだ未知数かもね」
幽《でも調子いいですよ》
女「ま、まだまだ新しいしね。扱いやすいのは確かみたいだし」
幽《音もトコトコいって可愛いです》
女「二気筒だからね。400ccとかなら四気筒のキュンキュン回るエンジンもいいかもしれないんだけど」
幽《250ccには四気筒エンジンは無いんですか?》
女「ひと昔前はクォーターでも四発が全盛だったらしいんだけどね。バリオスみたいなネイキッドも、FZRやZXRみたいなレプリカも」
42:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 20:02:36 ID:sqx8QzpQ
女「今は400cc以上しか四発のラインナップは無いんじゃないかなぁ」
幽《ふーん…》
女「普通二輪の免許しかもってない私としては、乗れる中で一番図体の大きいCB400への憧れはあるけど…体格に合わないの」テヘッ
幽《CB…400…》
女「知ってる? よく走ってるバイクだとは思うけど。最近はハーフカウルのタイプも多いよ」
幽《それって、別の名前ありますか…?》
女「別の名前…? ああ…スーパーフォア、略してスーフォアとか400ccに限定すればヨンフォアとか…」
幽《スーパーフォア…! 私…それも乗せてもらった事あります》
女「そうなんだ、格好いいよね!」
女(…後ろに『乗った』でも『お邪魔した』でもなく)
女(『乗せてもらった』…って言ったな…)
43:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 20:03:19 ID:sqx8QzpQ
幽《…バイクっていいですよね》
女「ん?」
幽《運転…してみたかったなぁ…》
女「…私の身体に憑依するとか、できないのかな?」
幽《あははっ…それはどうなんでしょう? でもこかしちゃいそうだから、試さないです》
女「じゃあいつか私が転んで、遠慮いらない状態になったら試してみよう」
幽《…ありがと、でも転んじゃだめですよ》
女「うん、気をつける」
幽《女さん、これ…受け取れますか?》
女「えっ? 受け取るって…」
幽《手、出してみて──》
44:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 20:04:05 ID:sqx8QzpQ
──スウッ…フワリ
女「わっ…すごい、手にとれた…! 髪留め…?」
幽《私の唯一の持ち物です。女さん、お守り代わりに持っててくれませんか…?》
女「うん…ありがとう、大事にしとくよ。可愛いね、七宝焼のスズランがあしらってある」
幽《スズランの花言葉って『幸せが訪れる』なんですよ》
女「おお! 恋の予感!?」
幽《毎週バイク三昧じゃ、なかなか訪れないかもですけどね》クスクス
女「言ってくれるねえ…」ピキッ
45:◆M7hSLIKnTI:2014/05/26(月) 20:05:19 ID:sqx8QzpQ
──ポツッ、ポツポツッ
幽《あ…少し降り出した!》
女「わわっ、ごめん…今日は帰るね!」
幽《はい、気をつけて! 雨に打たれても飛ばしちゃだめですよ!》
女「はーい! じゃあねっ!」
ドロロロロッ…ヴァオオオオンッ──
幽《気をつけて…下さいね》
幽《ずっと、貴女が来てくれますように》
幽《…ずっと、怪我のないバイクライフを過ごせますように──》
50:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 11:40:57 ID:Mj6uYtbk
……………
………
…
…約一ヵ月後、女の職場
女友「…で? 明日~明後日の週末は、どう過ごすのかな?」
女「えーと…えへへ」
女友「全くもう…最近ぜんぜん付き合ってくれないんだから」
女「ごめんね、真夏や冬場は乗る頻度落ちると思うんだ」
女友「はいはい、どーせ私達はバイクに乗れない時の保険ですよーだ」
女「そんなつもりじゃないよ!」
女友「…解ってるよ、ちょっと意地悪言ったんだ」
51:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 11:41:57 ID:Mj6uYtbk
女友「でもさ、みんな心配してるからね?」
女「うん…」
女友「だってあんた、近くの○○峠に行ってるって言うじゃない」
女「…そんなに攻め込んだ走りはしてないよ」
女友「あそこ、事故多いって聞くしさ…ほら何年か前には死亡事故もあったって」
女「そうなの?」
女友「えー、有名だよ? 兄妹で二人乗りしてて、妹さんだけ死んじゃったって……胸が痛くなるような話でしょ」
女「妹だけ…」
女友「お兄さんもまだ未成年だったから大きく報じられはしなかったらしいけど、女子高生のユウレイ見たって話もあるよ」
女「!!」
52:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 11:43:19 ID:Mj6uYtbk
女友「近道に使えるから私も時々車で通るけど、ガードレールにいっつも花が供えてあるんだよね」
女「…△△市側に下りる手前のところ?」
女友「そうそう、ちょうどオトコの人が供えてるのも見た事ある。もしかしてその人なのかなって思うと…いたたまれないよ」
女「私も見たかも…」
女友「あんたは二人乗りするわけじゃないんだろうけど、危ないのは同じだからね?」
女「うん、解ってる」
女友「…やだよ? 同僚達と花を供えに行くなんて」
女「お花よりお菓子がいいかな」
女友「ぶっとばすよ」
女「…ごめん」
53:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 11:44:06 ID:Mj6uYtbk
……………
………
…
…翌日
ドロロロロロッ──
幽《──おはようございます》フワッ
女「…おはよ」
幽《あれ…元気ないですか?》
女「ううん…大丈夫だよ。パーキング、誰もいなかったら停まろっか」
54:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 11:44:59 ID:Mj6uYtbk
………
…
幽《──そう…聞いたんですか、私がユウレイになった事故の事》
女「やっぱりそうなんだ」
幽《…はい》
女「ガードレールの花…お兄さんが供えてるんだよね?」
幽《毎月はじめの休みの日に必ず来てくれます。土曜日だったり日曜日だったりはするけど》
女「うん、先月の時は見かけたよ」
幽《…気付いてたんですね。私も目が合ったかなと思いました》
女「お兄さんが乗ってたバイクって…もしかして?」
幽《私はよく知らなかったけど、確か『スーパーフォア』って言ってたと思います》
女「乗せてもらったって言ってたもんね」
55:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 11:46:11 ID:Mj6uYtbk
幽《でも、お兄ちゃん…バイク乗らなくなっちゃった》
女「無理もないかな…」
幽《『乗せて』ってせがんだのは私なんです》
女「…うん」
幽《お兄ちゃんは『危ないから』って言ってたのに『安全運転でツーリングに連れてって』なんて、しつこく》
女「………」
幽《それでお兄ちゃんは、休みの日に部活がある私を『学校に送るだけしてやる』…って》
幽《朝、行きがけは遠回りしてでもこの峠は通りませんでした》
幽《…でも帰りの時間、部活が長引いて遅くなってしまって》
幽《私はその日、友達の家の誕生日会に呼ばれてて》
幽《お兄ちゃんに『19時までにどうしても帰りたい』って無理を言って…》
56:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 11:47:08 ID:Mj6uYtbk
女「…帰りはここを通ったんだ」
幽《春の事で、もう辺りは薄暗かったです》
女「あのコーナー、砂が出てる事あるよね」
幽《もしかして明るい内…行きがけに通ってたら、それにも気付いてたのかもしれないですね》
女「…時間に追われて、薄暗い峠道…か」
幽《危ないですよね、どう考えても》
幽《…お兄ちゃんは悪くない》
幽《砂が出てたとはいえ、運転のミスはあったのかもしれません》
幽《でも無理に後ろに乗ったのも、急かしたのも…私なんです》
幽《なのにお兄ちゃん…すごく傷ついて…バイクもやめちゃった──》
57:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 11:48:04 ID:Mj6uYtbk
女「お兄さんには、幽の姿は見えないの?」
幽《…見えてないみたいです。私が死んだ事、受け入れられてないから…かな》
女「今日は月はじめの土曜日だけど、来てないみたいだね」
幽《わかりません…でもこの時間に来ないなら、明日なのかも》
女「…よし、話そう」
幽《えっ…?》
女「お兄さんがずっと罪の意識に囚われてるの、辛いんでしょ?」
幽《それは…そうだけど》
女「お兄さんに落ち度が無いわけじゃないけど…でも、あまりにも悲し過ぎるよ」
58:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 11:49:07 ID:Mj6uYtbk
幽《でも、どう言うんですか? ユウレイの私に会ったって…?》
女「それしかないよね、本当の事だし」
幽《女さん、変な人扱いされちゃいますよ》
女「大丈夫! 同僚からはすっかり『バイクが恋人の変人』扱い受けてるよ!」
幽《…それは、確かに》
女「あん?」ピキッ
幽《な、なんでもないですっ──》
59:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:33:23 ID:NKaHf3oM
……………
………
…
…その夜、女の部屋
女(明日、お兄さん来るかなー)
女(間違いなく怪しまれるだろうけど…話せば解るんじゃない?)
女(だって当時高校生の幽と、今OLやってバイク乗りの私…接点が無いはずだもの)
女(あれから幽の事は随分聞いた)
女(お兄さんに対して、私がユウレイになった幽を知ってるって根拠にできるように)
女(好きだった食べ物…アーティスト、お兄さんと観に行った映画)
60:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:34:09 ID:NKaHf3oM
女(お兄さんが少しでも罪の意識から救われて、悲しみが癒えるなら)
女(…それでまたバイクに乗るようになるかは、本人次第だけど)
女(少なくとも、幽はお兄さんの事を恨んだりなんかしてないんだよ)
女(お兄さんが乗ってる軽自動車、なんの飾り気も無いベーシックなタイプだった)
女(年齢を考えれば、一番楽しい青春真っ盛りの頃のはずなのに)
女(きっと幽の事ばかりを考えて、自分が幸せになる事は避けてるんだ)
女(お兄さん…それじゃ逆に幽は悲しんでしまうんだよ)
女(きっと貴方がそうだから、幽は──)
61:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:34:53 ID:NKaHf3oM
……………
………
…
…翌日、峠道
──ヴァオオオォオォォンッ!
女(いけない…! 考え過ぎて眠れなかったから、起きるの遅くなっちゃった…!)
女(お兄さん、まだ居るといいけど…)
幽《──ちょっと飛ばし過ぎですよ、女さん》フワリ
女「幽! 遅くなってごめん、お兄さんは!?」
62:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:35:29 ID:NKaHf3oM
幽《大丈夫です。さっき来て、まだゆっくりしてます》
女「そっか、よかった…」ホッ
幽《でも、女さん。やっぱりやめませんか…?》
女「何を言ってんの、お兄さんの心を軽くしてあげたくないの!?」
幽《それは…でも、私…》
女(言いたい事…怖れてる事は解ってるよ、幽…)
幽《………》
女(それを考えてたから、昨夜は寝付けなかったんだよ──)
63:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:36:05 ID:NKaHf3oM
………
…
幽兄「──暑くなってきたな」
幽兄「もう花屋には、向日葵が列んでたよ」
幽兄「好きだったろ、お前」
幽兄「……もう三年以上にもなるんだな」
幽兄「兄ちゃん…お前がいないなんて、まだ信じられなくてさ」
幽兄「理解して…詫びなきゃいけないのにな…」
幽兄「嘘みたいなんだよ…あんなに大事にしてた妹を…」
64:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:36:43 ID:NKaHf3oM
幽兄「自分が、殺し──」
女「──違うよ」
幽兄「…何を、貴女は?」
女「幽の友達」
幽兄「幽…妹の?」
女「そう、最近知り合ったばっかだけどね」
幽兄「最近…って、冗談にしても笑えないですよ」
女「…妹さんなら、いるよ」
幽兄「ふざけないで下さい」
65:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:37:32 ID:NKaHf3oM
女「ふざけてない。妹さんは今、私の横に立ってる」
幽兄「性質の悪い冗談はやめてくれ! 妹は三年も前に…!」
女「……っ…」
幽兄「三年…前……俺が殺した…死んだんです…」
女「…違うってば」
幽兄「貴女が妹の生前の友人なら、俺を恨んでも当然です……すみません、俺が怒鳴ったりして」
女「ふぅ…じゃあ落ち着いて、こっちの話を聞いてくれるかな?」
幽兄「……?」
女「とりあえず、信じられなくても黙って聞いて? 戯言だと思っててもいいから、ちゃんと耳に入れてね──」
66:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:38:47 ID:NKaHf3oM
………
…
幽兄「じゃあ、今…妹は週末の度に貴女のタンデムシートに座ってると?」
女「そうだよ、とっても仲良しなの」
幽兄「…あんな事があったのに、バイクが原因で死んだのに…それでもバイクに乗りたがってる…」
女「本当は貴方の後ろに乗りたいんだと思うけどね」
幽兄「俺はもう…バイクに乗る資格も、その話が本当だったとしてもアイツを乗せる資格も無いですよ」
女「…妹さんは、貴方がそうやって自分を責めてる事が気がかりなんだよ」
幽兄「責めないわけにいかないじゃないですか」
女「それはそうする事で、自分の罪の意識を消さないようにしようとしてるだけだと思う」
67:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:39:31 ID:NKaHf3oM
女「妹さんが貴方に、ちゃんと自分の幸せを見つけて欲しいと願ってたら? …それに応えてあげる方が彼女に報いる事だと思わない?」
幽兄「………」
女「妹さんは貴方を恨んでなんかない。むしろ貴方の心をずっと縛りつけてしまっている事が辛いの」
女「だから彼女は私の後ろに乗っても、この峠から出られない。貴方の心が縛られている限り、あの娘も解放されないんだよ」
女「…貴方が自分を少しずつでも許していく事が、妹さんに対する供養なんじゃないかな」
女「…そうしないと」
幽《女さん、私は…》
女「幽は、いつまでも──」
幽《…お兄ちゃんには自分を許してあげて欲しいけど…! 私はずっと貴女と…!》
女「──成仏できないから」
幽《女…さん…》
68:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:40:08 ID:NKaHf3oM
幽兄「…わかった」
女「おっ…信じてくれるんだ?」
幽兄「いや、信じられないけど……でも貴女の言いたい事はわかりました」
女「…信じようよ、そこは」
幽兄「信じたいですよ」
幽《お兄ちゃん…》
幽兄「でも、やっぱり非現実的だ。アイツがそう望んでくれてるなら、確かにそうしたいけど…どう考えたって都合が良すぎる」
69:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:41:24 ID:NKaHf3oM
女「…幽は、たまの休みに貴方が作る手作りホットケーキが好きだったわ」
幽兄「そうでしたね」
女「最後に観に行った映画は『タイタンの戦い』、とんだB級で笑ったってね」
幽兄「ええ、覚えてます」
女「…全部、あの娘から聞いた事だよ」
幽兄「貴女が生前からの知り合いなら、聞いてるかもしれません。あるいは友人から聞いたか──」
女「──たらこおにぎり」
幽兄「…はい?」
女「貴方が彼女をバイクで学校に送った日、行きがけのコンビニで食べた朝ごはん」
70:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:42:14 ID:NKaHf3oM
女「コンビニの駐車場で車止めの縁石に腰掛けて、バイクを眺めて食べた…って。すごくワクワクして美味しかったって」
幽兄「…そんなに印象深かったなら、部活の友人に話したかもしれませんね」
女「じゃあ、ポカリスエット」
幽兄「…!!」
女「部活終わり、迎えに来た貴方が運動後の彼女のために買ってたってね。待たせたから仕方ないけど、ちょっとぬるかったって言ってたよ」
幽兄「……信じない」
女「それを半分飲んでからスーパーフォアの後ろに跨る時、彼女は反対から乗ろうとして」
幽兄「…やめて下さい」
女「タンデムステップじゃなく、買ったばかりのサイレンサーに足を掛けて酷く怒られたって」
幽兄「…やめてくれっ」
71:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:42:53 ID:NKaHf3oM
女「そして帰り道。学校からほど近い雑貨屋に寄って、友達の誕生日祝いのプレゼントを探した」
幽兄「なんで…そんな事まで」
女「不思議でしょ? だって学校を出発した後の事だもの。貴方自身と彼女しか知り得ない…貴方が誰かに詳細に話したならともかくね」
幽兄「……っ…」
女「プレゼントは髪留め、スズランを模した七宝焼の飾りがついてた。彼女は断ったけど、貴方はお金を出したわ」
幽兄「…本当…なのか」
女「さっきからそう言ってるよ」
幽兄「そんなの…信じられない、信じたら俺は…」
幽《…お兄ちゃん》
幽兄「…自分を許そうとしてしまう」ポロッ
72:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:45:08 ID:NKaHf3oM
女「…これ、貴方が持っておくべきだと思う」スッ
幽兄「!!」
女「買った髪留め…事故の時、彼女のポケットから落ちたんでしょうね。このコーナーのガードレールの外、草むらにあったって」
幽兄「…うっ…ぅう…」ボロボロ…
女「本当は友達へのプレゼントだけど、貴方が買ってくれた物だから…ここに遺るユウレイになった彼女は拾って大事に持ってたわ」
幽兄「妹……妹っ…」ガクッ
女「貴方を憎んでたら、そうするわけない…解るでしょ?」
幽兄「…は…ぃ……」
女「スズランの花言葉ってね、幸せが訪れる…なんだって。貴方、幸せにならなきゃ…ね?」
フワッ…スゥーッ
幽《お兄ちゃん──》
幽兄「──妹っ…!?」
73:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:46:10 ID:NKaHf3oM
幽《…よかった。私の事を信じてくれた今なら、きっと見えるんじゃないかと思ったの》
幽兄「妹…! お前…俺の事…!」
幽《恨んだりするわけないじゃん、馬鹿兄貴》
幽兄「ごめん…ごめんな…!」
幽《謝るのは私だよ》
幽《わがまま言って無理矢理後ろに乗って》
幽《わがまま言って急がせて》
幽《そのせいでお兄ちゃんを傷つける事になったんだ》
幽《それなのに、ずっと来てくれてありがとう…お兄ちゃん》
74:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:47:06 ID:NKaHf3oM
幽兄「違う…俺がもっとしっかり運転してれば…帰りもこの峠を通らなかったら!」
幽《『たら』とか『れば』をたくさん使えば、誰のせいにだってできちゃうよ》
幽兄「……でも…!」
幽《お兄ちゃん、私…幸せだった》
幽《あんな事になっちゃったけど、バイク…大好きなんだ》
幽《…バイクに乗ってるお兄ちゃんが、大好きだったから》
幽《だから…もういいの》
幽《お願いだから、お兄ちゃんは自分の幸せを見つけて欲しい》
75:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:48:06 ID:NKaHf3oM
幽《女さん…ありがとう》ニコッ
女「幽…私は──」グスン
幽《これできっと私、成仏しちゃうんだろうから…最初は怖かった》
幽《…貴女とずっと走ってたかった》
幽《でも、お兄ちゃんを縛りつけたままじゃだめだよね》
幽《やっぱり…これで良かったんだと思います》
──スゥーッ
女「幽っ…!」
76:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:49:16 ID:NKaHf3oM
幽兄「妹…俺、この髪留めずっと持っとくから!」
幽《うん…いつかそのスズランが幸せを呼んでくれたら、その後は渡すつもりだった友達にあげて欲しいな》
幽兄「解った…解ったよ、約束する!」
幽《女さん…私、貴女の後ろに乗せて貰ったこと忘れない》
女「私も…絶対忘れないからっ! このバイクの名前『幽』にする! ずっと一緒に走るんだからね!」
幽《バイクの名前…いいんですか?》
女「うん! それしかつけられないよ!」
幽《嬉しい…ずっと…どこまでも…》フワッ
77:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:49:59 ID:NKaHf3oM
女「幽っ!」
幽兄「妹…!」
幽《ありが…とう──》
──フッ
女「…幽……」
幽兄「………」
幽《………》
女「………」
幽《………》
女(…なんで消えないの?)
幽《…あれ?》
78:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:51:06 ID:NKaHf3oM
幽兄「妹…ありがとう。俺、少しずつでも前に向くから…!」
女(ん? お兄さんには見えてないな…?)
幽《お兄ちゃーん?》
幽兄「…女さん、ありがとうございました。まだ信じられないくらいだけど、俺…救われた気がします」ペコリ
女「えっ? あ、ああ…そだね! 良かった良かった!」
幽《えっと、お兄ちゃん…私の事見えてない?》
女「じゃあ、私…行くね! お兄さんも元気出してね!」アタフタ
幽《あ、あの…?》
幽兄「はい、これからも毎月花を供えには来るつもりなので、お会いするかもしれませんね」
幽《女さん…?》
女「うん、いつかまたバイクで来れるようになったらいいね! そ、それじゃ…!」
79:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:52:12 ID:NKaHf3oM
………
…
…ヴァオオオォオォォンッ
幽《もう…なんで急にあの場を離れたんですか?》
女「だって、幽がまだ消えてないとか言ったら『やっぱり思い遺しがあるのかな』とか、お兄さんが気になっちゃいそうじゃん!」
幽《うーん、そう…かも?》
女「ってゆーか、消えないじゃん! 成仏しないじゃん! 何それ!」
幽《あ、ひっどい! 消えた方が良かったって言うんですか!?》
女「違うよ! ただ、すっごい悲しくて寂しくなってた自分が馬鹿みたいじゃない!」
幽《あららー、私って愛されてますね》
女「もう…! 目上のヒトをからかわないの! あ…峠道、終わっちゃう──」
80:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:53:00 ID:NKaHf3oM
幽《──あれ?》
女「えっ」
幽《…出られた、峠から》
女「まま…まさか、お兄さんの呪縛が解けたから…?」
幽《これは…アレですね。私、地縛霊から浮遊霊にクラスチェンジしましたね》
女「クラスチェンジって」
幽《でも、やったぁ! これでどこにでもお供できますね!》
女「…まじですか」
幽《今日はどこ行きます!? ああ…ワクワクするっ!》
81:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:54:06 ID:NKaHf3oM
女「とりあえず安全運転で、気の向くまま行ってみよっか」
幽《それでいいです! 頼みますよー、バイクの『幽』ちゃん!》
女「あっ、そうだった! それ無し! 貴女がいるんだったら、この子が『幽』である必要ないもん!」
幽《あははっ、やっぱりダメですか》
女「名前は…もうしばらく未定かな、ピンとくるのが閃くまで」
幽《あの交差点、左に行きましょう。確かあっちは海の方ですよね? 山にばかりいたから、海見たーい》
女「いいね、今日のところは海沿いを流そうか」
幽《ツーリング! ロマンを求めて! …なんちゃって》
女「あははっ…なんか昔、TV番組のタイトルで聞いたような? 仕方ない…満足して成仏できるまで、付きあったげよう──」
──カツンッ
ヴァオオオォオォォンッ!
82:◆M7hSLIKnTI:2014/05/27(火) 19:55:30 ID:NKaHf3oM
《おわり》
過去作置場、よかったら覗いてやって下さい
http://garakutasyobunjo.blog.fc2.com/
83:以下、名無しが深夜にお送りします:2014/05/27(火) 19:57:52 ID:OtNPWoOo
乙!
もっと続いてもいいと思った
84:以下、名無しが深夜にお送りします:2014/05/27(火) 20:26:06 ID:gnq.Yf7w
乙です
85:以下、名無しが深夜にお送りします:2014/05/27(火) 20:38:07 ID:fS1UM.LY
乙
もっと続いてほしかったな
93:以下、名無しが深夜にお送りします:2014/05/28(水) 01:57:48 ID:uiB/FQzM
乙
何か良くわからないんだけどレバーのたらこ炒め作らなきゃいけない気がした
元スレ:幽霊「ツーリング浪漫を求めて」女「仕方ないから付き合います」
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