3:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 18:06:15.52 ID:dcflBY7d0
BJは興味なさげに窓から外を見た。
BJ「そんな王子様が私に何の用かな?」
斉藤「先生…今、僕がどんな状態かご存知ですか?」
BJ「知らんね。プロ野球はあんまり見ないんだ。」
斉藤「あれほど球界で注目を浴びた僕は、今や2軍で飼い殺しされているんです!」
彼は声を荒げた。
4:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 18:10:50.92 ID:dcflBY7d0
BJ「それは、実力が無いからだろう?」
斉藤「違います!怪我のせいです。」
BJ「怪我ねえ…」
BJはニタニタ笑っている。
斉藤「自己管理が甘かったことは認めます。だから僕は地道にリハビリを重ねて、怪我はほぼ完治しました。」
6:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 18:18:24.69 ID:dcflBY7d0
斉藤「問題は、怪我が治っても1軍に定着させてもらえないことです!僕には自信があるのに!」
斉藤は拳を握りしめた。
BJ「2軍での成績は良いのかね?」
斉藤「あんな酷い所で、真剣に投げられるはずがないでしょう!?みんな下手でエラーだらけだ!」
7:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 18:25:07.65 ID:dcflBY7d0
BJ「それは君も同じだろう?」
斉藤「なんですって?」
BJ「君は投手として役に立たない、だから2軍に残っている。違うかね?」
BJは伸びをしながら言い放った。
斉藤「それは違う!僕には才能がある!まだ調子がよくないだけなんだ!」
BJ「あきれたものだな…」
9:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 18:34:03.90 ID:dcflBY7d0
斉藤「それに、何回か1軍でも投げています。この前は2年ぶりに勝利投手にもなりました。監督も目を覚ましたはずです。」
しかし彼は浮かない顔をしている。
BJ「結構なことじゃないか。なおさら私に会う理由はない。」
斉藤「その後すぐ…肘のじん帯が断裂したんです。」
10:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 18:37:59.01 ID:dcflBY7d0
BJ「じん帯か…。選手生命が危ういわけだ。」
斉藤「そうです…。だから、先生に手術を頼みに来たんです。」
BJ「肘が治れば、君は活躍できると?」
斉藤「もちろんです。時間がかかってもいい。肘さえ治れば…」
彼は、シーズン25勝を達成する自分を想像した。
斉藤「フハハハハハ!」
12:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 18:42:51.00 ID:dcflBY7d0
BJ「…まあいい。私は医者だ。金さえあれば、手術はする。」
斉藤「僕はプロ野球選手ですよ?お金ならあります。」
BJ「じゃあ、今度私の家に来てくれ。住所は教える。」
斉藤「はい。よろしくお願いします。」
斉藤はホテルをあとにした。
13:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 18:47:13.86 ID:dcflBY7d0
一週間後…
BJ「連絡があったよ、今日、ここに来るそうだ。」
ピノコ「うわーい!はんかち王子見たかったのよのさ!」
BJ「何が王子だい。彼はもう26だぞ。」
ピノコ「べー!」
コンコン
扉をノックする音がした。
14:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 18:53:56.90 ID:dcflBY7d0
ピノコ「ぴやっ!来たのよのさ!ピノコはずかちい!」
ピノコは奥の部屋に飛び込んだ。
BJ「なんで隠れるんだ…まったく。」
ガチャ
斉藤「先生、今日はよろしくお願いします。」
BJ「まあ、入りたまえ。」
彼は斉藤を椅子に座らせた。
15:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 19:02:00.39 ID:dcflBY7d0
斉藤「2000万円はここにあります。」
斉藤は持っていたブリーフケースを開けた。
たくさんの札束が入っている。
BJ「いいだろう。すぐに始めよう。ただし…」
16:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 19:05:12.32 ID:dcflBY7d0
彼は念を押した。
BJ「私は君の肘を治す。完璧に。だが、その後活躍できるという保証はしない。それは君の責任だ。」
斉藤「分かっています。」
BJ「じゃあ、入りたまえ。」
彼は斉藤を手術室へ招き入れた。
17:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 19:08:33.59 ID:dcflBY7d0
準備は整った。
BJ「では、これから右腕の側副靱帯再建手術、いわゆるトミー・ジョン手術を開始する。」
BJ「私なりの方法でな。メス!」
ピノコ「あい」
18:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 19:13:05.73 ID:dcflBY7d0
2時間後…
BJ「縫合終わり。これでよし。」
ピノコ「先生、はんかち王子かちゅやくできゆかな?」
BJ「どうだろうな、それは彼次第だ。」
BJ(今のままでは難しいだろうな…)
19:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 19:18:53.65 ID:dcflBY7d0
翌日
BJ「知っているとは思うが、この手術には長期間のリハビリを伴う。復帰は手術から12~16ヶ月先だと言われている。」
斉藤「ええ…覚悟はできています。」
斉藤はベッドの上で険しい表情を浮かべている。
BJ「ところがどっこい、だ。私は無駄に長いリハビリが気の毒でね。少し工夫させてもらった。」
20:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 19:23:17.05 ID:dcflBY7d0
斉藤「はい?」
BJは近くのカバンから、妙なシートを取り出した。
斉藤「何ですか?それ。」
BJ「これは特殊な、ちょうど人間の腱のような繊維性の素材でできている。」
BJ「これを、君の肘の骨に直接埋め込んだ。」
斉藤「う、埋め込んだ?」
21:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 19:28:35.95 ID:dcflBY7d0
BJ「通常は反対側の腕などから正常な腱を移植する。しかしこれだと腱が定着するのを待たなくてはならない。」
BJ「だがこの素材は、その腱が位置するべき骨に、腱の代わりとして埋め込むことができる。そして人間のどの腱よりもはるかに切れにくい。慣れるだけでいい。」
斉藤「じゃあ…リハビリ期間は?」
22:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 19:42:07.33 ID:dcflBY7d0
BJ「2ヶ月だ。」
斉藤「そんな…信じられない!」
BJ「本当だ。試しに動かしてみろ。」
斉藤は右腕を挙げてみた。
すると、肘から先も動かせるではないか!
23:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 19:47:16.83 ID:dcflBY7d0
斉藤「う、動く!痛みも無い!すごい!フハハ!」
BJ「すぐにボールを投げられるようになる。」
BJはカバンに謎の素材をしまった。
斉藤「こんなに簡単に済むのに…なぜその素材は使われないんですか?」
BJ「これはアメリカで作られたばかりの素材だ。まだ実用性は研究中。だから発表はされていない。」
BJ「それを、ちょっぴりいただいたワケだ。」
24:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 19:55:24.52 ID:dcflBY7d0
斉藤「そんな物…人間に埋め込んで大丈夫なんですか?」
BJ「君が実験台だな。だが人体に害が無いことはすでに解明されている。心配するな。」
BJは部屋を出て行った。
斉藤(2ヶ月!シーズンには間に合わないけど、春期キャンプ、オープン戦なら大丈夫だ!やったぞ!)
25:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 19:59:30.36 ID:dcflBY7d0
斉藤は術後の経過を見るために1週間、BJの家にいたが、問題は無いので帰ることになった。
斉藤「先生…ありがとうございました。感謝しきれません。」
彼はBJの手をかたく握った。
BJ「リハビリは最後まで続けるんだな。」
斉藤「ご心配なく、2ヶ月なら軽いもんです。」
26:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 20:06:30.24 ID:dcflBY7d0
ピノコ「ねーえー、サインちて。」
斉藤「え、いいよ。」
斉藤は右腕を使ってすらっと色紙を書いた。
BJ「さっきも言ったように、半年後に必ず来てくれ。日時はまた連絡する。」
斉藤「もちろんです。では先生、ありがとうございました。」
斉藤は嬉しそうにスキップしながら去って行った。
27:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 20:10:12.82 ID:dcflBY7d0
そして半年が経った。 2月である。
BJ「寒さは続くな…ピノコ!ストーブつけてくれ!」
BJ(おっと、あいつは出かけてるんだったな。)
コンコン
BJがドアを開けると、斎藤佑樹が立っていた。
30:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 20:55:41.95 ID:dcflBY7d0
BJ「おいでなすったな。だが、まだ午前8時だぞ。」
斉藤「一刻も早く…お会いしたかったんです。」
彼の表情は暗い。
BJ「中も寒いが、入りたまえ。」
斉藤は中に入ってきた。
BJ「それで…どうだ?あれから…」
32:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 21:00:01.34 ID:dcflBY7d0
斉藤は吐き出すように言った。
斉藤「どうもこうもない!全然ダメです!」
斉藤「試合をやっても相変わらず打たれる!チームメイトも、監督も、僕を邪魔者のように扱う!何も変わらない!」
彼は拳を振り回した。
34:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 21:05:42.13 ID:dcflBY7d0
斉藤「肘が治っても変わらないんです!」
BJ「そうだと思ったよ。」
BJは不適な笑みを浮かべた。
斉藤「な、なんですって?」
BJ「肘が完治しても、君が選手として活躍できるとは思っていなかったってことだ。」
斉藤「じゃあ、なぜ…!?」
36:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 21:21:30.16 ID:dcflBY7d0
BJ「君と初めて会った後、ちょっと調べたんだ。君の成績と、言動とかをね。」
BJ「そして、君の不振には大きな精神的原因があると分かった。しかし私は精神科医ではない。」
BJ「私にできる治療は、この程度だ。効果はてきめんだと思うがね。」
BJが合図をすると、奥の部屋から誰かが出てきた。
斉藤はその人物を見て、驚いて飛び跳ねた。
斉藤「た…田中!?」
37:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 21:31:03.72 ID:dcflBY7d0
そこに立っていたのはかつてのライバル、田中将大だった。
田中「よお、久しぶり。」
田中は照れ笑いを浮かべている。
斉藤「むこうから…帰って来たのか?」
田中「ああ、おとといだ。ブラックジャック先生から連絡があってな、急いで来たんだ。」
斉藤「でも…なぜ?」
38:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 21:37:02.10 ID:dcflBY7d0
田中は真剣な顔つきになった。
田中「斉藤、俺がなぜ24勝を達成できたか、ヤンキースに行けたか…分かるか?」
斉藤「それは…お前にすごい才能があるから…だろ?」
田中は首を振った。
田中「それは違う。俺にたいした才能は無い。」
39:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 21:41:29.49 ID:dcflBY7d0
田中「決勝でお前に負けた時…本当に悔しかった。俺はずっと…天才だ、天才だと言われ続けていたんだ。」
田中「決勝までは、メディアも俺をこぞって賞賛した。だが全部お前が持って行ってしまった。」
斉藤は黙って話を聴いている。
田中「その後楽天に入っても、俺は自分の才能を信じて、練習をおろそかにした。チームメイトにも偉そうな態度をとっていた。」
田中「でも…シーズンで初登板した時、俺は打たれまくった。全然ダメだったんだ…みじめだったよ。」
41:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 21:47:42.03 ID:dcflBY7d0
斉藤「…」
田中「2回すら投げられなかった。ベンチへ戻ったとき、涙が止まらなかった。あの日、俺は変わったよ。」
田中「自分が…ただ自惚れているだけだと気づいたんだ。俺の才能なんて、プロでは役に立たなかったんだ。」
田中「それから、俺は勝つことだけを考えるようにした。勝つために練習する。全ては勝つために。自分に念じた。」
42:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 21:56:00.22 ID:dcflBY7d0
田中「俺も、去年肘を怪我した。期待されていた分、辛かった。でも落ち着いて、しっかり治すことだけを考えた。勝つために。」
彼は斉藤に駆け寄り、肩に手を置いた。
田中「斉藤。お前は、俺よりもずっと才能がある。お前は甲子園で一番輝いていた。でも、今のお前は腐っている。」
田中「才能は伸ばすものだ。ただそれに甘んじていただけでは、何の意味も無いんだ!お前もそれに気付いたんだろ!?なぜ
変えないんだ!その考えを!」
田中の手に力が入る。
田中「俺はもう一度、お前と戦いたい!あの時と同じ、強いお前と!…俺は向こうで待ってる。だから、お前は…自分を取り戻してくれ!!」
43:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 21:59:23.13 ID:dcflBY7d0
斉藤はしばらく黙っていたが、やがて椅子に座り込んだ。
斉藤「先生…僕の成績、調べたんですよね。」
BJ「ああ、しっかり頭に入ってるよ。カルテとしてね。」
斉藤「僕の一年目の成績…教えてくれませんか。」
BJ「6勝6敗だ。」
斉藤「そうかあ…一番良かった年で、その程度かあ…。」
44:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 22:04:36.23 ID:dcflBY7d0
斉藤「すごい記録を作ってやろう、って思ってたのに… その程度で満足してたのかあ…。ははは…」
BJ「…」
斉藤「田中…僕は…間違えていたのかな…」
田中「斉藤、キャッチボールをするぞ。」
斉藤「え…?」
田中「肘、治ったんだろ。ボールも、グラブもあるぞ。」
田中「投げながら話そう。色々なことを。」
斉藤「そうだな…」
46:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 22:11:16.88 ID:dcflBY7d0
2人は外に出て、キャッチボールを始めた。
それは昼過ぎまで続いた。
部屋に戻った時、斉藤の顔は晴れ晴れとしていた。
BJ「どうだ?目が覚めたか?」
斉藤「ええ…僕はバカでした。もう仲間にも、監督にも迷惑はかけたくない…僕は練習します!」
BJ「そりゃあ、よかった。」
斉藤「よおおおし!やるぞおお!」
彼は再び部屋を出て、いきなり腕立て伏せを始めた。
47:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 22:15:23.95 ID:dcflBY7d0
BJ「変な奴だ。」
田中「ええ…。そういえば先生、ご存知ですか?」
BJ「何を?」
田中「人間の腱に代わる、新しい医療器具が開発されたんです。それを使えば、じん帯の手術に驚くべき革新をもたらすらしいですよ。」
BJ「それはもしかして、『ファイバー・テンドン』とかいう素材のことかい?」
田中「ええ。すでに、MLBの選手のトミー・ジョン手術にも使われるらしいです。術式の名前自体、変わるかもしれませんが。」
48:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 22:20:18.52 ID:dcflBY7d0
BJ「そうか…フフフ…それは良かった。」
田中「どうしたんですか?」
BJ「何でもないさ…。ただ、その使用方法が発表されなかったら、誰かが困っていたと思ってね…フフフ」
外の寒さは薄れ、春の風が吹き始めた。
49:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 22:21:25.40 ID:dcflBY7d0
2016年 7月21日 デトロイト、コメリカ・パーク
デトロイト・タイガースのベンチ横にて
男「それでは、斉藤選手のインタビューです。」
男「斉藤選手、よろしくお願いします。」
斉藤「お願いします。」
男「まずは今日の完封勝利、おめでとうございます。」
斉藤「ありがとうございます。」
50:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 22:24:42.00 ID:dcflBY7d0
男「この試合を含め、13勝2敗。防御率も1.89と新人賞まっしぐらですが、この成績をどう見ますか?」
斉藤「そうですね…僕は、チームが勝利するために投げているんです。僕の登板が、よりタイガースを優勝に近づけることができれば、僕は満足です。」
男「では、同じく13勝をマークしているヤンキースの田中選手について、どう思われますか?やはり、ライバル意識はありますか?」
斉藤「ライバル?そんなの、昔の話です。」
斉藤は笑い、ハンカチを出して汗を拭いた。
51:ブラッキー好き:2014/08/05(火) 22:28:13.20 ID:dcflBY7d0
斉藤「彼は…僕のあこがれです。彼の存在が、僕を救ってくれた。ぼくはこのメジャーという舞台で活躍することで彼に恩返しをしたいんです。」
その時、ベンチの中からにこやかな大男が現れた
カブレラ「オーウ、サイトーウ、サイトーウ。」
カブレラは斉藤に抱きついた。
斉藤「フハハハ!ノー!ノー!」
他のチームメイトもベンチから現れ、斉藤は彼らと談笑しながら、ベンチの奥へと消えていった。
完
52:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL):2014/08/05(火) 22:29:50.39 ID:0CYfJVYN0
乙
泣いたよ
53:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/08/05(火) 22:30:52.60 ID:tVUB6CYno
乙 高校からプロ入りしてれば良かったのかねェ・・・
54:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/08/05(火) 22:36:37.42 ID:lw6bQAnlP
乙
ええ話やった
59:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/08/06(水) 00:52:48.77 ID:NaUR6dr0O
いいオチだ
地味にコミュ障も治ってるっぽいな
60:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2014/08/06(水) 02:01:37.37 ID:wZeM6M5To
乙
これが現実ならばどんなに良いことか…
元スレ:ブラックジャック「ハンカチ王子?」
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1407229262
【 関 連 記 事 】